今回は、なぜゲンシシャがエロ・グロ・ナンセンスを求めることになったのか。
その経緯についてお話したいと思います。
①排斥されてきたものへのまなざし
私は、大学院で漫画を研究していました。現在でも日本マンガ学会に所属しています。
では、なぜ漫画を研究しようと思ったのか。それは、まず漫画が新しい媒体であったこと、そして漫画がかつて、悪書追放運動など、排斥の標的になったからです。
私のマンガ研究者としての研究テーマは「エロマンガ」とそれに伴う「表現規制」です。
学部が法学部であったことから、刑法と憲法について学び、わいせつ物頒布罪と表現の自由の関係性、それに伴う判例である、「四畳半襖の下張事件」や、「チャタレイ事件」、そして、澁澤龍彦の「悪徳の栄え事件」 について分析を重ねてきました。
そして、現在では「松文館事件」など、マンガ、その中でもエロマンガ、BLなどが、排斥の対象になっていることを知りました。
そうした排斥されてきた性表現などにもう一度光を当てる、それがまず、エロ・グロ・ナンセンスに目を向ける理由のひとつです。
②「必要ないもの」のアーカイブ
次に、国会図書館で研究のための資料を物色しているときに、いわゆる風俗関係の雑誌や単行本などは所蔵されていないことがわかりました。そもそも国から必要ないと判断されたのか、あるいは出版社がアウトローなので納めなかったのか、わかりません。けれども、そうした国会図書館に収蔵されていないような品をアーカイブする施設がどこかに存在する必要があるのではないか、それがマンガ研究のなかで私が思いついたことでした。
そこで、神保町など、古書店を巡りながら、国会図書館のデータベースにアクセスし、所蔵されていないことがわかれば購入するという行為を始めました。
そうして集まってきた資料が、たまたま、エロ・グロ・ナンセンスに通じるものだったのです。
いわゆる変態向け、マニア向けに作られたものは、国会図書館にない。全国のどこの図書館にもない。それならば、うちで所蔵しようじゃないか。そうしてゲンシシャのもとにはエロ・グロ・ナンセンスをテーマにした書籍が集まってきたのです。
③さらにその先へ
そうしてゲンシシャが出来上がっていくうちに、排斥されてきたもの、と必要とされなかったもの、の収蔵が進み、資料も充実してきました。いや、もちろんいまだ序の口ですが。
そうしているうちに目をつけたのが、古写真です。
古写真ならば、書物のように場所をとることもない。そして、古写真こそ、その中でも特に風俗関係、エロ・グロ・ナンセンスの資料は、排斥され、必要とされないというよりむしろ隠蔽されてきたものではないか、そう考えるようになりました。
ですから現在、ゲンシシャには第二次世界大戦中の日本人収容所や、沖縄、アイヌ差別の資料、 戦争で殺された名も無き兵士たちの古写真が集まってきているのです。
隠蔽された禁忌に手をのばすことは、快楽を伴います。
そうして私自身楽しみながら、ゲンシシャは新しい局面へと舵を切ろうとしています。
どうぞ、今後共よろしくお願いいたします。