2020年5月23日土曜日

かおなしまちす

 かおなしまちすは別府市在住の画家です。

 大分市美術館にて開催している大分県内の若手作家を紹介する「CIAO!2020」展を鑑賞しました。

 かおなしまちすとは一体なんだろう?
 「かおなし」 は、匿名の、特定の個人に限定されない、などの意味を含み、
 「まちす」は、北野武監督映画『アキレスと亀』の売れない画家、真知寿(まちす)から来ています。

 今まで何度『千と千尋の神隠し』のカオナシと間違われたことやら。
 どうやら、かおなしまちすには独自の世界観があるようです。

かおなしまちす『恕』(2020年)

 かおなしまちすは、大分県のローカルテレビ局の番組やタウン情報誌で紹介され、ちょっとした有名人です。
  もともと美容師として働いていた頃から一転、夜の女になり、ラウンジでお客さんと酒を酌み交わすうちに、接客の術を修得、さらにラウンジなどで巨体をもって踊りまくり、パフォーマーとしての技も磨きました。
 正直言ってオジサン受けするような可憐さも持ち合わせてはいないのですが、その芸によってコアな客を惹きつけ、様々な場所へと通じる人脈を築いていきました。

かおなしまちす『滝』(2020年)

 かおなしまちすの魅力といえば、自分を覆い隠さず自由に生きているようで、夜の女として身につけた相手に対する礼儀も決して忘れないその絶妙な匙加減でしょう。
 初めて彼女に会ったメディア関係者が、その過激な振る舞いに度肝を抜かれ、LINEなどを交換して後から丁寧な言葉づかいに驚かされることも多々ありました。

  津久見に生まれたかおなしまちすにとって、別府の町は都会に見えたようです。温泉近くに風俗店が立ち並び、戦争中に空襲を受けなかったことで古い建物が残っており、港町の観光地ということで多彩な人物が跋扈する不思議な町・別府。彼女は別府で成長し、才能を開花させました。
現在、別府では、NPO法人「BEPPU PROJECT」による地域活性化を目的としたアートイベントが毎年開催され、アーティストが県外や国外から移住してきています。
 中でも「BEPPU PROJECT」が運営する「清島アパート」には、多様なアーティストが暮らし、地域に根ざした活動を行っています。
そんな「清島アパート」の彼らも、かおなしまちすのあり方を、そうであるべきだよなあ、とうなずきながら見つめています。
 かおなしまちすは、まさしく「地域に溶け込んでいる」存在なのです。
 保育園の壁画を描いたり、TVに出演したり、子どもからご老人にまで愛される存在なのです。
かおなしまちすは、故郷の自然豊かな津久見を愛す、郷土愛にあふれた女性で、作品名に難読漢字を付け、ラッセンの絵が好きだというヤンキー的な性格を持ち合わせています。
 一方で、ラウンジにて、演歌を歌うお姉さまの中で、水曜日のカンパネラ『桃太郎』を熱唱して、周りをドン引きさせたりするのです。
 本人が抜群に面白いというタレント性を持ち合わせ、絵も描く。別府市内には芸能人の絵画を展示する「別府アートミュージアム」がありますが、かおなしまちすも、大分県内のジミー大西や片岡鶴太郎のようなポジションにつくことが大いに期待できます。
 最近は抽象的な絵画を描くことが多く、宇治山哲平を彷彿させるような作品も発表しています。画家としての腕もここ数年で上達しており、洗練された、都会的な気風も備わってきて、ますます楽しみになってくるのです。
大分県内の画家は、大分県在住でも、東京や大阪のギャラリー、アートフェアで作品を展示する場合が多く見受けられます。そんな中で、大分に溶け込んだ芸術家かおなしまちすが、いかに大きく育っていくのか。
 楽しみで仕方がありません。