2023年7月3日月曜日

シャーデンフロイデ、ロビンフッド現象

  先日、大分市の映画館で『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』を見た。『サイコパス』シリーズは、今までで一番熱中したアニメだ。なにより伊藤計劃『虐殺器官』の思想をそのまま受け継いでいるし。

 結論として、完成度は高かったものの、個人的には面白くなかった。なぜなら、以前の劇場版とTVの3シリーズ目を繋ぐ役目であったから。だから、結論は分かっていたし、つじつま合わせの側面が大きかった。それでも、ウィリアム・ジェームズからの宗教の話は興味深い。やはり、今の時代、宗教だろう。エロ・グロ・ナンセンスの時代に出口王仁三郎がいたように、今も宗教が必要とされている。

 その『サイコパス』シリーズの一作目、冒頭に、仲良くする恋人たちに殺意を抱く犯人が登場する。妬みが犯罪の動機となる。格差社会といわれる現代において、多く見られるパターンだろう。

 「サイコパス」といったら、中野信子さんの『サイコパス』はさらりと学べる良い本だ。同じく中野さんが書いた『シャーデンフロイデ』も面白い。中野さんの本はどれも興味が湧くテーマを取り上げているし、近頃アートにご執心なところも引かれる。別府で行われたトークイベントに行けなかったことが悔やまれる。

  ちょっと前にハマったのが「ロビンフッド現象」というもの。なぜか。SNS、掲示板が社会に影響を与える、その構造が興味深い。

 今はどうなったか知らないが、「暗黒啓蒙」も、SNS、掲示板からの流れだった。それがトランプ大統領の誕生で頂点に達した。トランプ氏が大統領でなくなった今も、陰謀論という形でネットに居座っている。

 この間の「霊媒師になりたかった」女性もフェイスブックである宗教にハマっていたことが確認できる。そして、その宗教はやはり、トランプ支持、反ワクチン。

 陰謀論の受け皿になるのは、やはり宗教だろう。

2023年6月30日金曜日

コロナ後のゲンシシャ

  コロナ前と、コロナ後に関して、ゲンシシャの運営のこれからを考えるきっかけとなるいくつかの変化がありました。

①客層の高齢化

  このことについてはいろんなところで言及していますが、コロナ前は10代~30代のお客様がほとんどでした。

 現在は、40代~70代のお客様も増えてきて、ご来店された理由をお聞きすると、「Twitterを見てきた」と仰られます。

  この変化について、いくつか理由が考えられて、

 1.ゲンシシャのTwitterがセンシティブ設定をしているため、そもそも若者は年齢制限で見ることが出来ない

 2.コロナ禍で年配の方もインターネットを情報源にすることが増えた

 3.大分県内など地元のお客様が増えた

 この3つが主な理由ではないかと考えています。

 あと、私の周りを見渡すと、10代~20代はInstagramやYou Tubeを主な情報源にしていて、Twitterを見ている人は少ないように感じます。

 客層が変わると、置いている品物も変えなければなりません。

 お客様の傾向として、人皮装丁本などの骨董品より古書に興味を持つ方が増えました。

 ②近所の方のニーズ

 大分県内のお客様が増えたことによって、様々なニーズに応える必要が出てきました。

 たとえば、ゲンシシャで『鬼滅の刃』が読みたい、村上春樹が読みたい、人によってはインテリアデザインの本が読みたい、などご近所さんのニーズにも応える必要が出てきたのです。

 コロナ禍で県外のお客様がどっと減ったときには、経済的にも、精神的にも、とても苦しかったものですから、ご近所さんのニーズも大切にしなければ、との思いが強くなっています。なによりご近所さんは常連さんになってくださる可能性が高いですから。

 けれども、県外からわざわざ足を運ばれるお客様はやはりニッチな本が読みたいでしょうから、店内に置く本のバランスについて、今一度考え直す機会となっています。

③まとめ

 今なら、ヴィレッジヴァンガードが時代を経て、ライトな商品を扱うようになった理由が身にしみてわかります。

 本という趣味性の高い商品を扱う上で、様々なニーズに応えようとすると、どうしても大量の本を陳列せざるを得ない。けれども、大分県内で一番多くの本を扱っていたジュンク堂書店が閉店したこともあり、大量の本を置くことが一概に良いことだとも思えません。なによりその路線でいってしまうとアマゾンには勝てません。

  ちょうどよいバランスについて、考えています。

2021年3月6日土曜日

いま注目する「NFT」と「Amazon POD」

 最近はネットニュースを見る機会が多くなり、様々な情報を得ています。

 コロナ禍で家にこもる人が増えるなか、同じような環境で過ごす人も多いのではないでしょうか。

 

 先日、ネットを見ていると以下のようなニュースを見つけました。

バンクシー作品「こんなクソ作品を買うお前らのようなバカがわからない」が焼却されNFTトークン化 来週競売に 

 良かれ悪かれ、時代を先取りするバンクシーが、「I can't believe you morons actually buy this shit(こんなクソ作品を買うお前らのようなバカがわからない)」という言葉が書かれた「Morons(能無し、ばか)」という題の作品を焼却し、ノンファンジブル・トークン(NFT)にしたということ。

  NFTについては以下の解説記事をご覧ください。

世界で人気高まるデジタル資産──5分でわかるNFT 

 デジタル資産であり、高価格で取引され、偽造や改ざんの可能性も限りなく低い。

アーティストにとっては、オークションハウス(競売会社)やギャラリーを介さずに、デジタルのかたちで作品を世界中の買い手に直接販売することができるため、収益の大部分を手元に残すことができようになる」

  魅力的ではないですか。

 

 もうひとつ、「Amazon POD」が誰でも利用できるようになったとのニュース。

 「Amazon POD」の解説記事は以下を参照してください。

誰でもAmazonで本を出版できる「POD」。初期費用もランニングコストもタダで販売が開始できます

「PODのメリットは、

  1. 印刷費用などの初期費用0
  2. 売れた分らその都度印刷・発送するのでランニングコスト0
  3. 決済・発送などの出版後の業務はすべてAmazonが行う
  4. Amazonで流通することで露出機会を得られる
  5. 読者はAmazonの便利なサービスを利用できる

といった点が挙げられます。」

 とのこと。 このサービスを利用することで初期費用ゼロで誰でも手軽に本を出せるようになります。

 

 上がることが十分想像できたビットコインを買わなかったことを悔やむこの頃。

 新しいサービスが次々とあらわれる状況に、追いついていかねばなりません。

2021年2月8日月曜日

創造県おおいた

  『アートの創造性が地域をひらく』(ダイヤモンド社)という本を読みました。


 

 別府市をはじめとする大分県は、アートによる地域活性化に力を入れています。

 この本に関わる日本政策投資銀行は、過去にも現代アートと地域活性化~クリエイティブシティ別府の可能性~」と題する調査研究レポートを提出しています。このレポートについては藤田直哉『地域アート』(堀之内出版)でもふれられ、アートによる地域活性化を行う上での問題が批判的に捉えられていました。

 さて、この本を読んでわかることは、大分県におけるアートに大分の代表的な経済人が参加する大分経済同友会が密接に関わっていること、「おんせん県」と「アート県」を二本の柱とする観光振興が行われていることです。そして「創造県おおいた」を掲げ、戦略を練っています。

  別府市ではNPO法人BEPPU PROJECTによる「in BEPPU」「ベップ・アート・マンス」が実施され、大分市では「おおいたトイレンナーレ」が実施されたほか佐賀関と野津原という郊外の廃校になった小学校を使ったアートスペースを設け、竹田市では「竹田アートカルチャー」が実施、「国東半島芸術祭」も実施されました。この一連の動きには大分県全域をアートで活性化する「アート県」構想があるのです。

 近頃は、『家、ついて行ってイイですか?』に別府市のアーティスト・イン・レジデンス「清島アパート」が登場し、同じく別府市にアートホテル「ガレリア御堂原」が完成し各メディアに取り上げられています。

 「edit Oita エディット大分」という大分の「旅行、お風呂、アート」をフリーアナウンサーの宇賀なつみさんがレポートするポータルサイトもできました。

 2018年に実施された「アニッシュ・カプーア in BEPPU」のアンケートで判明したように、別府市内では「別府=アートの町」という概念が浸透してきているものの、大分県外ではまだその概念が共有されていません。しかし、メディア戦略を駆使することで、「別府=アートの町」、ひいては「大分=アート県」という概念をより多くの人に共有してもらおうという試みなのでしょう。

 また、大分県は障がい者アートにも力を注いでおり、2019年に「おおいた障がい者芸術文化支援センター」が開設されました。別府市内でも、福祉施設が続々と障がい者アートに参入してきています。

 大分県がこれほどまでにアートに力を入れていることをご存知でしたでしょうか。東京都内でも「東京ビエンナーレ」が実施されるなど、アートによる地域活性化は全国いたるところでコロナ禍の中でもさらに勢いを増しています。 そんな中での大分県の前進をぜひ見守っていただきたいと思います。

2021年1月18日月曜日

書肆ゲンシシャの2020年

  しばらくブログを書きませんでした。なぜかというと、ひどい鬱に悩まされていたもので、まとまった文章を書くことも億劫になっていたからです。

 2020年は、新型コロナウイルスの蔓延で、今までにない波乱の年となりました。 

 そんな中、書肆ゲンシシャの来客はどのような推移をたどっていたのか。今回は、私でしか書けない、そして事実に即した内容を書き留めます。

 2020年は、当初からお客様の数が多く、特に大学が春休みとなる2,3月は、申し訳なく思うものの、店から溢れんばかりの来客がありました。中心はもちろん大学生、若い女性、なかでも東京からのお客様が多く、次に大阪、福岡と続きます。

 4月になると、緊急事態宣言が発出される直前まで、東京からの来客が続きました。中には政府関係者のご子息もいらっしゃり、内部情報を聴いたりしたものです。緊急事態宣言が発出される直前に、ゲンシシャは臨時休業しました。

 5月になると、持続化給付金を受け取り、これでしばらくはしのげるとほっとしたものです。コロナの影響で閉店された他店から本を譲り受けました。今でも大切に扱っております。

 6月となり、ゲンシシャは営業を再開しました。しかし、まったくと言っていいほど、来客はありませんでした。近隣にお住まいの常連のご高齢の方は、コロナを理由に来店を躊躇され、大分県内を中心とした方々に支えられました。

 7月となり、東京での大きな仕事も舞い込みましたが向こうの現場で陽性者がでたため、キャンセルとなりました。まもなくGO TO トラベルが始まり、徐々に県外のお客様も戻ってきました。

 そう、このGO TO トラベルが、ゲンシシャにも大きな影響を及ぼしました。日に日にお客様の数が増え、例年でも8,9月は大学が夏休みとなるため多いのですが、10月になってもまだ増え続けました。知人に言わせると「毎日がゴールデンウィーク」。はっきり言いますが、店頭での売上は例年以上、かつてないほどのお客様がいらっしゃいました。それも多くが東京からのお客様、中には北海道からいらっしゃった方もいて、この動きが11月まで続いたものでしたから、体力的にはしんどいところもありましたが、賑わい、売上が大きく増えた期間となりました。

 12月になると、東京からのお客様がまた減少しました。かわりに、大阪と福岡からの来客が中心を占めるようになりました。年末が近づくにつれ、帰省客が増え始めると、また東京から来店される方もみられました。

 2021年初めての記事となる今回は、まず2020年の様子をゲンシシャの来客という観点から綴りました。こうしてみると、やはりゲンシシャに興味がある方が東京に多くいらっしゃることを実感します。その方々がGO TO トラベルを契機として別府までいらっしゃったことに感謝いたします。

 二回目の緊急事態宣言が発出され、気が抜けない状況ですが、 存続をかけ、精進してまいります。

2020年8月24日月曜日

狂気に惹かれる

 映画『ある画家の数奇な運命』予告編

 ドイツの画家ゲルハルト・リヒターの半生をモデルにした映画です。2020年10月2日公開。

 私はこの予告編の冒頭、裸でピアノを奏でる狂気の女性の虜になりました。

 彼女はリヒターの母の妹マリアンネ。神経を病み、ナチス・ドイツによる優生学的な民族浄化政策の犠牲になりました。

 不思議なめぐり合わせで、リヒターが東ドイツ時代に知り合った最初の妻の父が、この民族浄化政策を仕切っていたナチスの医者だったという。

 その辺りに焦点をあてた映画です。

 詳しくは以下の記事で。

ゲルハルト・リヒター《ベティ》―――仮象のジレンマ「清水 穣」

 

 先日、別府ブルーバード劇場にて、やっと映画『アングスト/不安』を観ました。

 ネット上の評価はあまりよろしくないようですが、私はその狂気に引き込まれました。

 刑務所の中で妄想していた殺害計画を実行するため、大きな庭がある家に侵入、老いた母親と障害がある息子、そして娘を襲うがうまく行かず、凄惨な結果になってしまう。

 支離滅裂で、行きあたりばったりな殺し方が、むしろ現実に近いのではないか。理性的に、秩序だって行われる殺人より、よほどリアルな印象を受けました。

 その犯人の様子は滑稽でもあって。けれども、実際にあった事件をもとにしていて、笑えない、カフェの男性が持っている新聞の見出しが序盤は「戦争」で、終盤には「平和」になるように、ブラックユーモアの込められた作品でした。

 また、監督が多大な金額を注ぎ込んだものの、自粛などで上映できず、破産の危機に瀕したというエピソードもまた、狂気じみていてよいです。

 パンフレットでは、同じくシリアルキラーを扱った映画として『ヘンリー』と『ハウス・ジャック・ビルト』が取り上げられていました。三作品とも鑑賞しましたが、『アングスト/不安』のわからなさが、不穏な雰囲気を醸し出していて素晴らしい。作り込まれた映画だけれども、作られていない、素の感じがしました。


 こうした狂気はなぜ人を惹きつけるのだろう。少なくとも、私は引き込まれます。

 原爆投下の日から終戦記念日にかけて、第二次世界大戦を扱った作品が多いけれども、その狂気をもっと表に出してほしい。

 覚醒剤を使いながら戦った兵士たち。本当に効き目があったのかわからない、汚れた水を綺麗にする「浄水液」や、パイロットが着陸後に飲むとすぐ元気になったといわれる「航空元気酒」。原爆投下後の広島では、爆心地の土を使って「原爆焼」がつくられ、原爆の熱線により黒く溶けた瓦が「原爆瓦」として売りに出されていた。

 こうした狂気こそ、戦争の醍醐味であり、いかに当時の人たちが狂っていたかを知る良い機会になると思います。

 最近は、憂鬱です。世の中が狂ってきているのが、目に見えて分かる。憎悪と分断。市民のあいだにある暴力は、やがて国家間の戦争へとエスカレートしていくでしょう。

 世界が狂ったとき、「狂っていない」とはどういうことなのか。

 今から検討を始める必要があります。

2020年6月28日日曜日

別府をめぐるあれこれ「第2期別府市総合戦略」など

 新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいた別府市がこれから回復に向かうのか、岐路に立たされている現在、様々な動きがありますのでここで紹介いたします。

 まず、NHK総合にて、6/29(月)午後7時より、女優の鶴田真由さんのファミリーヒストリーが放送されます。
 
鶴田真由さんは、別府の老舗ホテル、ホテルニューツルタの親戚筋にあたり、ニューツルタの一族の歴史もたどる、ニューツルタ社長もご存知なかったエピソードも含めた深い番組に仕上がっているそうです。

 別府市役所が、第2期別府市総合戦略 ~まちをまもり、まちをつくる。べっぷ未来共創戦略~」を策定しました。
新型コロナウイルスの影響が出る前に決められたものですから、これからどう動いていくのか、異なる箇所も多いかと思います。

B-biz LINKとの連携を強化していく旨を前半にて強調しています。
 B-biz LINKとは、市役所の外郭団体であり、市役所内部から出向した職員などを含め、別府市のPR動画を手がけたり、イベントを実施するなど、幅広い分野で活動しています。
 知人が「別府の電通」と称して、なかなか言い得て妙と納得しました。
 別府市役所は現在、別府市役所、B-biz LINK、BEPPU PROJECT、BEAMSの4つの頭文字をとった「4Bプロジェクト」を実施しており、密な連携がとられています。

 そのBEPPU PROJECTについても、「第2期別府市総合戦略」の中で触れられています。
BEPPU PROJECTはいわゆる「アートでまちおこし」を実施しているNPOですが、同NPOが主導する市民文化祭「ベップ・アート・マンス」の参加者数を増やすことが計画に含まれており、市役所との近さを感じさせます。
 一方、新図書館について、当初は図書館と美術館を併設した一体型の施設を目指していたものの、美術館は現在の別府市美術館を存続させる方向で動いており、「第2期別府市総合戦略」の中でも単に「新図書館」と掲げられ、美術館新設は厳しい状況になっています。

 BEPPU PROJECTは2021年に山口県央で開催される芸術祭「山口ゆめ回廊博覧会」のプロデュースも行っており、大分県を出て、着々と勢力を拡大しています。
 別府市でほかに気がかりなのは、まず湯量が減少していること。別府市はやはり温泉で有名ですが、地殻変動の影響なのか、湯量が減少し、鉄輪エリアなど、温泉が出ない施設もでていきています。

 次に、スーパーホテルなど新しいホテルの乱立による既存のホテルの閉鎖。別府駅前にはスーパーホテルがまもなく完成し、星野リゾートも2021年に完成予定、客室数が大きく増加する見込みです。2019年のラグビーワールドカップに向けて、民泊なども含め、客室数が増えてきたところさらに、です。そんな中、新型コロナウイルスによるダメージは甚大なものになっています。今のところ三泉閣の倒産がニュースになったくらいですが、これから間違いなくホテルの閉鎖は増えていくことでしょう。
 ホテル関連で言えば、鳴り物入りで完成したANAインターコンチネンタル別府が7月から価格を下げることも気になります。最低でも5万円は出さないと泊まれなかった、安宿が多い別府に君臨する超高級ホテルですが、最近は従業員の解雇も行い、なかなか思い通りに進まなかったことが見て取れます。

  別府駅前の名物の弁当屋「デカ弁」が30年以上の歴史に幕を下ろしたことを象徴に、別府市全体がダメージを受けている状況です。
 第二波がくれば、と心配しながら、今は静かに読書に励んでいます。