2016年6月5日日曜日

豆塚エリ『いつだって溺れるのは』

 この度、大分県別府市在住の作家、豆塚エリさんが太宰治賞の最終選考に残り、大分県内では新聞をはじめ、各種メディアでそのことが報道されました。
 惜しくも受賞は逃したものの、叙情性豊かな、読む者に生きる感動を呼び起こさせる佳作です。

 豆塚エリ『いつだって溺れるのは』読了。
 激しいまでに感情を揺さぶられる作品だ。淀みなく綴られていく出来事にひとつひとつ感情が動かされ、登場人物の死でその堤防は決壊し洪水として溢れ出す。
 詩的あるいは私的に綴られた文章にどこまで自身の経験が詰め込まれているのか、現実と架空の狭間にたゆたう主人公と読者の感情が呼応する。
 題名から川上弘美の『溺レる』を思い出したが、別府から見た松山への憧憬が、地元あるいは作者自身の心に根ざした重さを感じさせる。
 女という性が障碍によって増幅される本作品は女性には感動を、男性には畏れを与えるだろう。
 いずれにせよ人生の重みを、歓び、悲しみといった感情の渦を思い出させてくれる佳作である。

 以上は、6月5日、別府市内の商店街で彼女の作品を読んだ際に書いた感想です。
 選考委員の方々の選評が待ち遠しい。

 太宰治賞の最終候補作を収録する『太宰治賞2016』は6月16日に筑摩書房から発売、Amazonでも販売されます。
 書肆ゲンシシャでは彼女のトークイベントも企画中です。
 よろしくお願いいたします。