2019年7月2日火曜日

現代における少女の系譜

 幻想的なものに惹かれると同時に、少女性に惹かれる。
 幻想文学は、森茉莉、尾崎翠、矢川澄子、野溝七生子、倉橋由美子、吉屋信子、金井美恵子、津島佑子、女たちが紡ぎ出すものでもあるはずだ。そして、しばしば少女が重要な位置を占めている。
 今回は、現代における少女を描いた作品について、私の趣味を思う存分濃縮して取り上げてみる。

 現代をときめくファッションモデルのひとり、モトーラ世理奈に注目している。
 彼女を知ったのは、『装苑』でのこと。そばかすが特徴的なその姿に、一度見たら忘れられない強烈な印象をもった。
 彼女の存在をひときわ意識するようになったきっかけが、吉澤嘉代子『残ってる』のPVでのこと。
その朝帰りをする女性の可憐な、けれども凛とした姿に、撮影場所が以前の私の生活圏だった代々木公園駅であったこともあり、強く惹きつけられた。
 吉澤嘉代子は、「魔法少女」とでも呼ぼうか、不思議な歌ばかりつくっているシンガーソングライターで、 曲によってまるで印象が変わる、それでいて、ひとつの方向性を形作る個性のかたまりだ。この『残ってる』はあいみょんと一緒にNHKの『SONGS』などで売り出されていた時期の曲で、聞いたことがある人も多いだろう。
 その吉澤嘉代子の『女優』がまた小川紗良演じる主人公が、同性愛の感情をおぼえていると推測される女性の結婚に動揺する美しいPVとともに公開されている。
小川紗良は女優であるとともに、映画監督でもある。早稲田の映画研究会出身で、『聖なるもの』を監督した岩切一空の後輩である。彼女の『あさつゆ』がまた予告編からして魅力的なのだが、ソフト化されていないのがなんとも悲しいかぎりだ。『聖なるもの』と共にぜひ鑑賞したい作品だ。
吉澤嘉代子『女優』のPVに戻ると、こちらを監督したのが、あの『少女邂逅』で鮮烈なデビューを飾った枝優花だ。岩井俊二監督の『リリイシュシュのすべて』に影響されたそうだが、岩井監督という男性がつくり上げた少女の物語より、女性がつくり上げた少女の話ということで、より一層好感がもてる作品に仕上がっている。こちらはソフト化されているのでぜひ観てもらいたい。モトーラ世理奈と保紫萌香(現・穂志もえか)が主演を務めている。
そんな枝優花監督が、『少女邂逅』のアナザーストーリーとして作ったのが『放課後ソーダ日和』だ。クリームソーダを軸にした心温まる物語で、モトーラ世理奈と保紫萌香は初回に登場している。
昔ながらの純喫茶が舞台になることもあり、昭和レトロ感も満載で、就寝前などに観るのにちょうどいい。その主題歌を手がけているのが、羊文学。
スーパーカーとよく比較されるが、ファーストアルバムのタイトルが『若者たちへ』と、若者に向けた新しい感性をかんじさせる、なおかつそれまでの音楽の歴史を踏まえた作品づくりを展開している注目のバンドだ。新宿の街頭テレビで流れていたこともあり、東京ではかなり知られている存在なのだろう。

 こうした流れとは異なっているが、注目しているのが映像作家の吉開菜央だ。
NTTインターコミュニケーション・センターにおける黒塗りの件で思わぬ方向で有名になってしまった。それまでも米津玄師『Lemon』で踊るダンサーとしてだったり、作品とはちがう方面から取り上げられることが多く複雑な気持ちになる。少女というより、フェミニズム的な文脈で女性を前面に出しており、今の時代にふさわしい作家である。柴田聡子を起用して映画を撮っていたりするいま注目の存在だ。
NHKドラマ10『ミストレス』の主題歌をうたうNakamuraEmiのPVもたびたび手がけていて、やはり女性の心を歌い上げる内容とあいまって完成度の高い作品に仕上がっている。吉開監督自身が日本女子体育大学でダンスを学んでおり、身体という面から考察しても面白い作品だ。

 LGBTやBL、MeToo運動など様々な形で取り上げられる現代の女性。少女の表象といった面でどう変化が生じ、何が変わらないのか今後の動向に注目している。