2017年12月5日火曜日

今まで蒐め損なった後悔の品々

 「驚異の部屋」として運営している書肆ゲンシシャ。
 日々コレクションを蒐集し、陳列品は増えています。
 
 今回は、これまで、どうしても欲しかったのに、入手できなかった、そんな品について、リストにしてここに記しておきたいと思います。

①高村光太郎の智恵子について詠った直筆原稿

 高村光太郎の『智恵子抄』で知られる、高村智恵子こそ、私が思い描く「幻視者」のイメージです。病におかされ、幻覚の中で、自殺未遂をし、肺結核で亡くなった智恵子。光太郎の詩を通して見る彼女は、あまりにも繊細で、儚く、そして幻想的な存在です。
 そんな智恵子について高村光太郎が詠った直筆原稿を見かけました。智恵子が病床で「やがてこの世がひっくりかえる」(記憶が曖昧)と繰り返し語っている姿を書き留めた詩で、なんとも不穏な雰囲気に包まれている。
 この詩は、ゲンシシャにふさわしかった。

②水木しげるの貸本時代について回想した直筆原稿

 数々の妖怪を描いた水木しげるもまた、「幻視者」です。壮絶な戦争体験と、その後遺症の中で妖怪を描き続けた水木しげる。彼が、貸本時代の苦しい生活について記した直筆原稿がありました。原画ではなく、随筆だったので、比較的安かったのですが、買おうか迷っている内に水木しげるの訃報が飛び込み、するとすぐさま売れてしまいました。

③終戦後の沖縄で米兵に身体を売っていた女性たちの古写真アルバム

 従軍慰安婦など、たびたび問題になっていますが、私が見かけたのが、沖縄がアメリカに占領されていた頃、米軍兵士に身体を売って生計を立てていた沖縄人の女性たちの生々しい古写真アルバムです。アメリカ人が残したもので、裸で上目遣いにこちらを見つめる女性など、インパクトが強い写真ばかりが集められていました。 この記憶もまた、歴史上隠蔽されてきたものです。こうした歴史を見つめ直す場所としてゲンシシャは機能しています。そのためにも、置いておきたかった。

④頭が亀頭のかたちをしており、股のあいだに女陰がある、招き猫のような彫像

 吉原で使われていたものと説明されていましたが、真偽のほどはわかりません。頭が亀頭で、股のあいだに女陰がついているというなんともグロテスクな形状をしています。それでいて、招き猫のように右手をあげているのです。サイズはかなり小さく、かわいらしくも見えます。 まさに珍奇な逸品でした。

 他には、⑤ひとつの振り子でふたつの文字盤を動かすことができる大正時代の掛け時計、や、⑥沖縄で戦死した人たちをうつした古写真アルバム(しかも詳細なキャプション付)、⑦澁澤龍彦による『ポトマック』直筆翻訳原稿・一冊分揃い、などなどぜひ欲しいものはたくさんありました。

 コレクターにとって、欲しかったのに逃してしまった品物は、悔やんでも悔やみきれません。 ということで、ここに記して、ひとまず諦めることにいたします。
 付け加えると、これらの品は、ゲンシシャを開店してから、二年間のうちにすべて見かけた品なのです。ネットや骨董市をくまなく探し歩けば、二年間でこれだけの品物が探し出せるのです。
 本当に便利な世の中になりました。