2017年3月5日日曜日

古本屋経営の実情(ゲンシシャの場合)

 たまには空想ばかりしていないで、実務的なことも話そうと思う。
 ゲンシシャはなんとか一年目をしのいだ。しのいだ、という言葉がぴったりと当てはまる。
 古本屋を経営していると実際に出会う物事について書くことにする。

序・古本屋を始めるには

 古本屋を始めるには、警察署に行って古物商の許可をもらえばいい。交通費などをあわせて二万円ほどで取得できる。書類などを市役所や法務局、ゼンリンに行って集めればいいだけの話だ。いたって簡単で、気後れする必要もない。

①古本屋オープン

 別府のような田舎で古本屋をオープンすると、地元の新聞社やテレビ局が取材に来る。それほど意外性のあることなのだ。ある意味気狂い沙汰なのだ。
 なので、山ほど客が来る。しかし比較的に知識のない層が多く来るので、たとえば、古本屋とはなんですか、骨董屋とはどう違うんですか、とそんな質問をされることもあった。それも仕方がなかろう、大分県内には片手で数えるほどしか古本屋はない。
 大分県はおそらく、47都道府県で唯一古書市がない。古書市というのは古本屋同士が持っている古本を交換する市場のことだ。なので、私は骨董市に行くしかない。そして、掛け軸だの壺だのには高値がつくが、古本屋は二束三文で取引される。二束三文といっても、ヤフオクで落札される金額より高額だ。これについてはオークファンに会員登録すればすぐ相場がわかる。なので、骨董市で本を仕入れても何ら旨味はない。だからゲンシシャは個人からの買取、あるいは隣県の古書市を通じて本を仕入れている。

②古本屋の日常

 オープンから2ヶ月を過ぎた頃から客足が途切れ始める。ちなみにオープンしてまもなく様々なメディアに取り上げられたが、実際にその媒体を見て来た客の人数は、新聞→雑誌→テレビの順だ。新聞を読む高齢者層が多く来た。テレビは深夜番組だったこともあり、ほとんど効果がなかった。
 さて、ゲンシシャは店内で飲み物を出している。なので、来る客の人数も売上につながる。大体、一日に10人ほどが来る。近所の喫茶店に聞いてみたところ、これでも多い方だろうとのこと。人口10万人の地方都市としては善戦している。東京の立地が悪い寂れた古本屋と比べても遜色ない。
 けれども、これでは運営できないので、ネット販売に力を入れる。従来の「日本の古本屋」ははっきり言ってだめだ。全然売れない。最安値に常につけておいて、時々売れれば万々歳だ。重要なのは先ほども述べたヤフオクだ。メルカリに押されているイメージがあるヤフオクだが、オークファンで相場を見ながら、うまい具合に最低落札価格などを設定しつつ攻めていけば、そこそこの売上にはなる。
 ヤフオクの落札相場は「日本の古本屋」よりは安いが、なんとか利益を出せる水準にある。仕入れ価格を工夫すればなんとかなるだろう。

③古本屋を運営する上での苦労

 古本屋をそうやって経営していくと、必ず行き当たるのが家賃の問題だ。ゲンシシャは九州の別府という地方都市の、賃貸マンションの一階の狭いスペースを借りているが、それでも家賃は一ヶ月10万円ほどだ。なんとか人通りが多い場所にしようと思えば、地方においても家賃10万円はかかる。もちろん家賃5万の物件もあるが、それは内装がボロボロで、内装工事に200万円ほど取られるからなのだ。うちはその点、前の店の居抜き物件なので、内装費はほとんどかかっていない。
 この家賃10万円はかなり大きな負担だ。単価が高い本を売ろうとも、家賃10万、プラス光熱費、通信費に自分の生活費も稼ごうとするとかなり苦労する。
 ゆえに、ゲンシシャはなんとか一年をしのいだ、そんな風になっているのだ。
 ゲンシシャを黒字の安定した経営にしたいのならば、今の場所を引き払って、もっと山奥に倉庫を借りてネット販売一本にしたほうがどれほど効率的か。
 けれども、ゲンシシャ店内で展示や読書会といったイベントを開催する楽しみが、この非効率的な経営を続けている理由だ。
 ゲンシシャが実店舗を持っていることで、東京や大阪、福岡からも来店される方がいらっしゃる。そのために赤字すれすれの経営を続けている。

④扱う本の種類

 今時、文庫本や文学書を扱っている古本屋はだめだ。ブックオフがあるのだし、単価が安すぎて話にならない。それに比べて、今流行りのアーティストの画集や写真集は、品切れになるや、定価の二倍から三倍、時に百倍(!)もの値段で流通し始める。単価も高い。仕入れにリスクはあるが、それ以上のリターンがある。画集や写真集でも古い、昔人気があったようなものは当然ダメだ。今、旬なアーティストを見極める目が必要になってくる。そして、得てしてそうした本は価格が乱高下することも珍しくない。だから、株をやっているようなスリリングな体験ができる。良いか悪いかは別として。
 ヤフオクだけではなく、余裕があればeBayもやるべきだ。本当に需要がある本は世界規模で売れていく。
 ちなみに、今特にダメな本は文学全集と図録だ。この二つには手を出さないように。そうそう、映画のパンフレットなんてもっとダメ。古書の価格を決めているのは、発行部数だと言っても過言ではないのだ。だから、将来人気が出そうな、限定50部とかそのあたりの本を多く持っておくことをおすすめする。先ほど言ったようにそこで目利きが試される。

⑤まとめ
 いろいろ語ってきたが、つまるところ、言いたいことはただひとつ。
 余程お金に余裕がなければ古本屋、もっと言えば、本に関わる職業には就くな、ということだ。
 それほどまでに本を取り巻く企業の現状は厳しい。ニュースをちょっと見ればわかる。書店員なんて最低時給でこきつかわれて、それでも本が好きだから、という精神論でたたかっている。
 健全な精神を持っている人はやめたほうがいい。
 本当に本に関わりたいのなら、作家と出版社と書店を全部やるくらいの気力がないとだめだ。
 そして、今私が目指しているのもまさにそこだ。ゲンシシャの出版事業をいち早く立ち上げ、さらに、ゲンシシャ店主の私の露出を増やして文筆業に勤しむこと。それがゲンシシャの当面の目標である。