2016年6月9日木曜日

言葉のコラージュ

 私は幼いころ、本を読むのが苦手でした。
 なにしろ読むのが遅い。ドストエフスキー『罪と罰』を一ヶ月かけて上巻を読み終えたあと、あまりもの疲労に下巻を読むことができなかった―――今では恥ずかしい思い出です。

 大学院生になって、速読術を身につけてからは、一日に三冊の本を読むようになりました。当然本屋で本を買ったのでは財布が追いつかず、図書館、それも国会図書館にひきこもって読書を続ける日々を過ごしていました。

 そうしている内に編み出したのが、「言葉のコラージュ」です。
 これが私の技、作品を生み出す唯一の手段といえます。
 小説の中に惹かれるフレーズをいくつか見つけ、それを継ぎ接ぎして文章をつくる。
 それが「言葉のコラージュ」。

 たとえば、
 『戸川昌子集』
 秘密クラブにて注文に応じて「死姦」「生き埋め」といった美しく豪華な料理が振る舞われる。「絞殺」では、黄色い駝鳥の皮の手袋とハイヒールだけを身につけた女性を材料にし、回転する円卓の上に載せ、パーティーに参加した男たちが交互に手術用のゴム製の手袋をはめ首を絞める。

 『小酒井不木集』
 人間の死後、心臓を切り取り摂氏三十七度に保たれた箱に入れ液に浸すと、渚に泳ぎ寄る水母のように拍動を始める。医学者は心臓が動く度に発生させる電気を計測し、恋愛曲線の製作を試みる。失恋した男の血液を失恋した女の心臓に通すと恋愛の極致が表れるという奇想に舌を巻く。

 これらは感想文のようにも見えますが、なんのことはない、小説の一節を繋ぎあわせてつくられた「言葉のコラージュ」なのです。

 かつて澁澤龍彦は言葉をコラージュする術を身につけ、多くの文を書いた。
 そのやり方を発展させる形でこの「言葉のコラージュ」を続けていきます。